Time Fall

ポイント

コンセプト

機械式の時計では重力を使ったものが多い。振り子時計は重力の働きにより振り子を往復させているし、砂時計や水時計も重力でモノが移動しようとする力を利用している。そこで今回、桁の間の繰り上がりの動力を重さに蓄える時計を作ってみた。

縦長のバーが上下する時計には既にいろいろな例がある。例えばこれは7セグメント表示を、またこれは数字を表示するが、いずれも1つ1つのバーにモーターが装着されており、バー間の連動は電気式である。同様のものはこちらこちらにも見られるが、どれも桁間の連動(繰り上がり)はメカ的には実現されていない。

そこで今回の設計では減速ギアを利用した。1つの桁のバーが落下すると同時に隣の桁を1つ持ち上げればよいが、そうすると上の桁ほど軽くする必要がありそうに思える。しかし実際には落下するバーの移動距離に対して持ち上げられるバーの移動距離が短いので、減速ギアを用いることで、軽いバーがより重いバーを持ち上げることが出来ることになる。自動車の変速機でも、速度を遅くするとそれだけ力(トルク)が大きくなるというのと同じである。テコの原理と同じといっても差し支えない。バーを持ち上げる部分にラチェット機構を用いているので、実際には1文字分持ち上げるのにちょうど1文字分の動きでは足りない。そこで最初の減速ギア(1分の桁から10分の桁)では1:5の減速を、次のギア(10分の桁から時間の桁)には1:3の減速を行い、バーの落下で2文字分の動きが得られるようにした(上の図で最も左のギアは、モーターで1分の桁を持ち上げるためのものである)。

バーが最上部まで上がったら下まで落ちるメカも必要である。そこで、上図左の赤い部品のように上下にスライドする部品を設け、バーが最上部まで上がると持ち上げられるようにした。そうするとフック(青い部品)が押し下げられてフックが外れ、バーが落下する。バーが落下すると赤い部品は押し下げられてまたフックが係るようになるという寸法だ。また、バーを持ち上げる機構にもフックがあり、これも退避機構が必要である。上図右のピンク色の部品がバーを持ち上げる部品(隣の桁の上昇・下降に応じて反対向きに動く部品)である。この部品のフックは最上部に持ち上がると外れるようになっており、各桁を持ち上げたところでバーを切り離して落とす。普通の場合は青い方のフックにバーが引っかかって止まるが、バーが一番上まで上がったときは前述の仕組みによりすべてのフックが外れてバーが下まで落ちるという仕組みである。文字や静止画では説明が難しいので、冒頭の動画を見て欲しい。

理論的には動くはずの仕組みだが、中央の短いバーが時間の長くて幅の広いバーを本当に持ち上げることが出来るのかなど、いろいろと懸念事項はあった。しかし結果的には少し潤滑するだけで問題なく動作した(動かない場合は追加の重りを装着するつもりだった)。ただ、バーが落ちるときに非常に大きな音がするのと、衝撃が大きいので耐久性に難がありそうだ。バーの落下に抵抗を与える方法があるが、そうするとおそらく僅かな引っ掛かりなどで途中で停止してしまいかねないので、バーが落ちたときにソフトに受け止める仕組みのほうが現実性がありそうだ。

上記のように音や耐久性に問題があるためおすすめしないが、例によって3DデータとプログラムはThingiverseで公開している。