中判スプリングカメラ購入ガイド

中判カメラは大きく重いものだ・・という先入観を覆す存在がスプリングカメラだ。折りたたむとたいていの35mmカメラよりも薄くなり、また軽量なものが多い。そのかわり機能が削ぎ落とされていたり、操作部が小さく作られていたりして使いづらいものもあるが、いまどきフィルムで急いで連写するものでもなし、旅行、登山、出張や通勤などに気軽に持ち歩けるスプリングカメラはいまもって魅力的なカメラである。ここでは古今東西の代表的な機種を取り上げ、その大きさ重さ、機能を比較しながら紹介する。

大きさと重さ

連動距離計を備えた小型のカメラを、35mmカメラも含めて並べてみた。前から順にオリンパスXA, レチナIIa, レチナIIIC(大窓)スーパーセミイコンタ(531)パールII, スーパーバルダックススーパーイコンタシックス(534/16)マミヤシックスオートマットフジカGS645プロフェッショナルプラウベルマキナ67である。


右列から順に35mm、6x4.5判、続いて6x6判のカメラ。左の2台は1980年前後に作られた、復刻的意味合いの濃い2台でどちらも連動露出計を備えている。

中判カメラでは同じフィルムでも機種によって画面の横幅が違い、これによって当然、カメラの大きさも変わってくる。ただそれ以上に大きさに影響するのが、巻上げ機構や露出計、距離計の構造などの機能面の違いである。後の時代のものほど機能が豊富となるために、大きく重くなっているものが多い。以下で述べる様々な機能を必要とするかどうかを勘案して、自分にぴったりあった機種を見極めるのがスプリングカメラ選びの醍醐味である。


大きさ等を含んだより詳しい表はこちら

代表的な機種の仕様をまとめ、重さの順に並べた。35mmカメラについてはこちらをご覧頂きたい。全体として、露出計が連動するものは1980年ごろ以降の機種に限られること、それらの機種は35mmでは小型軽量化しているのに対し中判では大きく重くなっていることが分かる。巻き上げと同時にシャッターチャージが完了する(セルフコッキングを備える)ものは、全盛期のスプリングカメラでは事実上マミヤシックスオートマットだけである(他に海外にいくつか例があるが、距離計が連動していなかったり、非常に数が少なかったりする)。

露出計とセルフコッキングにこだわらなければ選択肢は大幅に広がり、小型軽量なモデルも含まれる。中ではスーパーセミイコンタや戦後のスーパーイコンタシックス(531/16または534/16)パールが入手性、レンズ性能、使いやすさなどの点で勧められる。パールIVにはひと通りの機能が備わっており、少し重く、製造数が少ないために相対的に高価であるが、一時期の高騰からすると価格は落ち着いてきている。他に6x6判のスーパーバルダックスは比較的高機能な割に小型軽量だが、流通数が少ない。

機能

スプリングカメラには機能をそぎ落として小型軽量化を追求したものからひと通りの機能を備えるものまで、そのバリエーションは広い。そこでここでは機種選びの基準となるであろうスプリングカメラの機能について説明する。ファインダ関係はこちらも参照されたい。

非連動距離計
1900年代初頭はシートフィルム(1コマごとに1枚のシート状になっているフィルム)を使うカメラが多く、この場合は大判カメラのようにピントグラスを取り付けることで精密なピント合わせが可能であった。ところがロールフィルムの登場によりフィルム室がカメラに固定され、ピント合わせは目測に頼らざるを得なくなってしまう。イコンタも初期は目測のみのカメラであった。しかしどうしても目測での距離の見積もりは正確性を欠くので、単体距離計と呼ばれる、プリズムを用いた距離計測器が発売されていた。この単体距離計をほぼそのままカメラに組み込んだものがスプリングカメラには多く見られる。折りたたみが出来る構造のためにレンズのピント合わせと距離計とを連動させることが難しく、やむなく連動を諦めたとも言える。またスプリングカメラでは、ピント合わせのためにレンズ全体を前後させるのではなく、前玉だけを回転させるタイプのものが多い。この場合は距離計を連動させることがより難しいため、非連動距離計を備えているカメラが多くなる。

非連動距離計を備えたスプリングカメラは、慣習的に「メス・◯◯」のように呼ばれることが多い(特にツァイス機)。「メス」は化学実験で用いるメスシリンダーの「メス」と同様に測ることを意味する語で、距離を測るデバイスであるためにそのように呼ばれるそうだ。代表的な機種として、メスイコンタ(6x6判)、ペルケオE(6x6判)、パールI型(6x4.5判)などがある。距離計で測定した距離を目盛りで読み取り、レンズ側に移す必要があるので速写性に欠けるが、近距離であればあらかじめ距離計とレンズの目盛りを同じ値に合わせておき、前後してピントが合ったところでシャッターを切るという技法もある。しかしいっそのこと目測で撮影したほうが軽快であることもあり、どうせ距離計を使うのであれば連動距離計がついた型を使ったほうがよい。

連動距離計
レンズでのピント合わせと距離計が連動するものである。1932年はライカII型とコンタックスI型が発売された「連動距離計元年」とも言うべき年で(それまでにも連動距離計を備えたカメラは存在するが、使いやすさや完成度、台数・認知度などの点でライカやコンタックスには遠く及ばない)、これ以降、連動距離計による速写性とピント合わせの正確さがカメラの価値として急速に重視されるようになったといえる。そしてはや、その翌年の1933年にはイコンタに連動距離計が備えられる。イコンタの連動距離計は特殊な形式で、ボディ側には光路を二分割するプリズムだけが備わっており、距離に応じて光路の向きを変える(二重像の重なり方を変える)ための光学系はレンズ側に取り付けられたドレイカイル・プリズムである。つまりボディ側とレンズ側が機械的に連携することなく距離計の連動を実現しており、精度や耐久性も高いことから1955年ごろまで変わらず生産された。他の機種ではレンズ側とボディ側を、なんらかの機械的な連結によって連動させる方法を選んでいるものがほとんどである。


イコンタの外観。レンズから右に飛び出している部分がドレイカイル・プリズムで、左へ180度回転させて畳むことが出来る(手動で展開・格納せねばならない)。ボディ側には像を2つに分けるプリズムのみが備わる。

連動距離計を備えたスプリングカメラは、慣習的に「スーパー・◯◯」のように呼ばれることが多い。またはライカに倣って、連動距離計を備えたタイプにII型やそれ以降の型番を振っているものもある。代表的な機種として、前述のスーパーイコンタ(6x4.5判、6x6判、6x9判など)、フォクトレンダーのプロミネントやベッサII、ホートンのエンサイン・オートレンジシリーズ、マミヤシックスシリーズ、富士のスーパーフジカシックス、小西六パールII以降の機種などがある。

一眼式距離計
構図を決定する、つまり撮影する範囲を決めるためのファインダの中に距離計が組み込まれているものである。言い方を変えると、一眼式距離計でないカメラでは、距離計の覗き窓とファインダの覗き窓が分かれていて、距離合わせと構図決定で覗きかえる必要がある(ライカII型などのバルナック型ライカと同様の方式である)。一眼式距離計は速写性に勝るが、ファインダ視野全体をひと目で見えるようにするためにはファインダに縮小倍率を掛ける必要があり、有効基線長が小さくなる(距離計測精度が低下する)という問題がある。

スーパーイコンタのうち6x4.5判と6x9判のタイプは全て二眼式の距離計・ファインダとなっているが、6x6判のスーパーシックス、スーパーイコンタシックスは初期のものを除き一眼式距離計を備えている。またベッサII, マミヤシックスシリーズ、スーパーフジカシックス、パールII型以降なども一眼式距離計である。

自動巻き止め装置
中判フィルム(120フィルム)は裏紙に番号が書かれており、初期のカメラではカメラ背面の赤窓を覗いて番号を合わせることでフィルム巻き上げを行う。これに対し、機械的にフィルム巻上げ量を測り、1コマ分フィルムが進んだ時点で巻上げ機構をロックするなどして巻き上げを停止する装置を自動巻き止め装置という。現代のほぼ全てのカメラには備わっているため(特に135フィルムのカメラでは、裏紙がなく、フィルム両側にパーフォレーションと呼ばれる穴が等間隔で開いていることもあって)当たり前のように思えるが、スプリングカメラにはこれが備わっていない機種(赤窓を見て巻き上げなければならない機種)も多い。

自動巻き止めが備わっている機種は意外と少なく、イコンタのスーパーシックスシリーズ(6x6判)と戦後のスーパーイコンタシックス(531/16または534/16)、小西六のパールIII型・IV型マミヤシックスやフジカシックスの一部、ペルケオIIなどが挙げられる。ただし当時のフィルムは現在のフィルムよりも厚手だったそうで、現在のフィルムを装填して使用すると、特に後半のコマで巻上げ量が不足してコマ間が重なることがあるカメラが多い。


スーパーバルダックスのトップカバー内部を示す。右のギア部分が自動巻き止め装置とフィルムカウンター。中央のレンズ等が並んでいる部分がファインダと連動距離計で、向かって左手のシャッターボタンとその基部にある銀色のプレス部品が二重露光防止装置(自動巻き上げ装置と連動している)である。赤く着色されている部分は、巻き上げ完了状態・シャッターロック状態を示す指標である。

二重露光防止装置
スプリングカメラではフィルムの巻き上げとシャッターが連動しておらず、1コマ撮影してから次の撮影までに、シャッターのチャージ(シャッターを動かすバネを引く作業)とフィルム巻き上げを確実に行う必要がある。このときフィルム巻き上げを忘れてしまうと、前後の画像が二重露光され台無しになってしまう。これを防ぐ機構が二重露光防止装置である。この機構が付いていると、巻き上げをしない限りシャッターをセットしていてもシャッターをきることが出来ない。自動巻き止めと似ているようだが、赤窓式巻き上げのカメラ(自動巻き止めがないカメラ)でも二重露光防止装置が付いているカメラもあるし、自動巻き止めだが二重露光防止装置の付いていないカメラもある。この装置がないと二重露光のほか、しばらくしまいこんでいたカメラを使う時などに巻き上げ済みかどうかに自信が持てず、念のために巻き上げて1コマ分を無駄にしてしまうことなどがある。ミスを未然に防いでくれるため、スプリングカメラで速射するような必要もない現在では、個人的には自動巻き止めよりも二重露光防止装置のほうが優先度が高いと考えている。

二重露光防止装置が備わっているカメラとしては、イコンタの一部(6x4.5判と6x9判では1936年以降のもので、巻き上げノブ基部が一段高くなっているもの)、エンサインの一部(シャッターチャージせずに撮影しようとするとシャッターボタン中央の針が残り痛い思いをする)、マミヤシックス(初期のものは撮影するとファインダ内に赤い指標が出ることで視覚的に警告する。この指標は巻き上げると退避する。後のものは自動巻き止め装置と一体化し、シャッターボタンが機械的にロックされる)などがある。また、例えばパールIII型は自動巻き止めであるが二重露光防止装置がついていない。


イコンタの二重露光防止装置の部分。巻き上げノブとシャッターボタンが連動し、巻き上げが完了していると窓内が赤に、完了していない(シャッターボタンがロックされている状態)ではシルバーとなる。

セルフコッキング
フィルム巻き上げとシャッターのチャージが1つの動作により同時に行われる装置である。これも1960年以降のカメラでは当たり前になっているものが多いが、スプリングカメラではほとんど採用例がなく、1950年代までのカメラでは事実上、 マミヤシックスオートマットのみが備えている(他にも同時期の海外製カメラ「ダコラ ロイヤル」「アジフォールド」等にセルフコッキングを備えたものがあるが、連動距離計でなかったり、巻め止め機構もなく、極めてマイナーにとどまる)。一方で、1980年ごろから登場したリバイバル的性格のカメラ(フジカGS645プロフェッショナルプラウベルマキナ67シリーズ、ニューマミヤ6、富士GF670)では全てがセルフコッキングを備えている(さらにこれらは連動露出計ないし自動露出も備えている)。

その他の機能
アグファのスーバーイゾレッテなど、フィルムのスタートマークを合わせる必要さえないもの(ローライフレックスのようにフルオートマットであるもの)もあるが、最初の1回だけのことであり、さほど優先度が高い機能とはいえない。露出計は、ツァイス・イコンのスーパーシックスを始めとしてセレン式の非連動露出計を備えたものが見られるが、このタイプの露出計は精度が高くないために、正確な露出を求めるのであれば1980年ごろ以降のモデルを使うべきだろう(今ならスマートフォンのアプリでも露出計の代わりになるものもある)。

シャッターについては、コンパー・ラピッドの最高速が1/500秒であるが、シャッターチャージ後は1/500に入れることが出来ないなど使い勝手が悪く、事実上は1/250秒と考えたほうが良い(そのため、例えばプロンターSVSの0番シャッターは最高速が1/300秒だが、使い勝手としてはあまり劣らない)。シンクロコンパー以降のシャッターであれば1/500秒は安心して使用できる。ただし実際にその速度が出ているかどうかは別である。

レンズはほとんどの代表的機種(廉価版でない機種)で、テッサーまたはその模倣に属する4枚構成のレンズが用いられている。ただし同じ4枚構成でもガラスの選択肢(スプリングカメラの時代では、ドイツのショット社では製造できるが国産化には成功していないガラスも多い)によってレンズ設計の自由度が異なり、同じような性能であるとは限らないし、トリプレット型の3枚構成のレンズにも良い設計のものがある。F値はF3.5までのものが多いが、スーパーシックスやスーパーバルダックスなど6x6判のカメラにF2.8前後のレンズが付いているものが若干見られる。1980年代以降のカメラには、レンズを5枚以上用いたより高性能なレンズが用いられており、コーティング技術も進歩していることから、蛇腹の内面反射の少なさも相まってカラーリバーサルフィルムでは極めて発色の良い写真を得ることが出来る。

代表的機種の紹介

ここではマイナー過ぎないモデルを対象に、フォーマットや種類ごとに各機種の特徴を紹介する。35mmカメラについてはこちらをご覧頂きたい。
6x4.5判
中判カメラでありながらフィルム1本で15〜16枚撮影でき、35mm判に比べフィルム面積が約2.7倍もあること、縦横比が印画紙に近いこともあって画質と経済性、携帯性のバランスが良い。しかし高機能なカメラが少なく、多くは目測式・赤窓巻上げ式の廉価モデルである。その中で選びやすい機種となると、ツァイス・イコンのスーパーセミイコンタか、小西六のパールII型以降のモデルということになるだろう。パールはII型で赤窓式であったところ、III型で自動巻き止めが付くが二重露出防止機構が備わっておらず、コマ間も重なりやすいことやボディ下部の出っ張りが大きいことから、安価なII型も選択肢に入れて良いと思う。IV型は二重露光防止装置のほか、採光式ブライトフレームも備わるため人気が高いが、6x6判のスーパーバルダックスよりも大きく重くなってしまっている。イコンタはパールに比べ一眼式距離計でないが、二重露出防止装置を備えていることのほかファインダがアルバダ式(廉価モデルを除く)でフレーミングがしやすく、重量は同程度だが若干小さく薄いため、優れたカメラであると言えるだろう。

6x6判
他の判に比べ高機能なカメラが多い。代表機種はやはりツァイス・イコンのスーパーシックスであるが、戦前のタイプはダイキャストフレームを備えるためにかなり重い(ほぼ1kg)。それに対し、戦後のスーパーイコンタシックスは非常に小型軽量化されており、露出計のついた最終モデルの534/16(スーパーイコンタシックスIV)でも710g、その前の露出計が付いていない機種であれば700gを切る。マミヤシックスはバックフォーカシング機構のためにやや大きめであるが、ボディ背面で操作するピント合わせ操作がしやすく、シャッターボタンの配置なども含め使いやすいカメラである。若干マイナーな機種であるがスーパー・バルダックスは自動巻き止め・二重露光防止・一眼式連動距離計を備えながら700g以下と小型軽量で使いやすく、おすすめできるカメラである。

6x9判
スーパーイコンタとベッサIIに人気がある。特にカラーヘリアーの付いたベッサIIに人気があり(アポランターが付いたモデルもあるが、極めて高価である)、品質やレンズのスペック、美しいボディデザインのほか、一眼式距離計を備えている点とレンズの良さが人気の理由であると思われる。ただし多重露出防止装置や自動巻き止め装置は備わっていない。判の大きさからしてじっくり撮るカメラであり、レンズの好みを中心に選択してよいものと思う。

1980年ごろ以降のカメラ
中判フィルムを用い、携帯時には小さくなるカメラとしてフジカGS645プロフェッショナルプラウベルマキナ67、ニューマミヤ6、富士GF670の4機種がある。いずれも採光式ブライトフレーム付き一眼連動距離計、セルフコッキング、連動露出計を備え、後2者は自動露出も備えている。ただし1950年代までのカメラに比べるといずれも大きく重い。また67判のカメラはこのジャンルの2機種しかない。

プレミア価格に注意を要するモデルについて
これまでに述べたように、折りたたみが出来る中判カメラは数が少ないため、特にハイスペックな機種、高性能なレンズを搭載した機種は高値で取引されていることが多い。中でもベッサIIのアポランター付きは極めて高価で、7桁に届こうかという価格のものもある。続いてヘリアー付きのものに人気がある。またプラウベルマキナ67も、2000年ごろまでに比べ3倍程度(30万円以上)に相場が上昇している。逆にセミ判のスーパーセミイコンタ(特に戦後の最終期のモデル)とパールIV型は、一時期は15万円前後で見られることもあったが、現在は落ち着いてきており半額程度になっている。ほかにエンサイン・オートレンジ(16-20, 820)も、その高機能性やロス・エクスプレスレンズの評判もあって高値で取引されている。

歴史

裏紙と一緒にフィルムを軸(スプール)に巻いた中判フィルム(120フィルム)が登場したのは西暦1900年である。それに対し、我々が写真用のフィルムと言われてまず想像する35mmフィルム(135フィルム)はもともと映画用のフィルムであり、静止画の撮影に広く使われるようになったのは1950年代以降である。ライツが1925年に映画用フィルムを流用するカメラ「ライカ」を販売したのが事実上の35mm小型カメラの始まりで(それまでにも同様のカメラはあったが、極めてマイナーであった)、さらに映画用フィルムを自分で切って詰め替える手間をなくした、金属の缶(パトローネ)に入ったフィルムがレチナとともにコダックから発売されたのは1934年である。その後35mmカメラは高級機から次第に廉価なカメラへと市場を広げ、ようやく1950年代後半になって一般ユーザが広く35mmフィルムを使うようになった。実際、日本では1950年ごろに中判フィルムを利用する二眼レフが大きなブームになるなど、そのころまでは中判が写真の中心にあった。

1950年代の後半から1960年代にかけて35mm判一眼レフ(ペンタックスやニコンF、ニコマートなど)やハーフ判カメラ(オリンパス・ペン等)、距離計連動レンズシャッター機(キヤノネットやオリンパス35、ミノルタハイマチック等)などが市場を席巻し、中判カメラはこれに追われるように、その画面の大きさを活かしたプロやハイアマチュア向けの大型で高機能なモデル(主に一眼レフ、例えばブロニカやペンタックス67、マミヤRB67等)に軸足を移した。この結果、機能を絞る代わりに小型化を追求した中判カメラは姿を消してしまう。しかし逆説的に言うと35mmフィルムが普及するまでには、中判にも小型軽量を旨としたカメラが多く存在した。

中判カメラでは画面の大きさに比例してレンズの焦点距離も長くなり、標準レンズはおおむね75mm以上となる。このためレンズからフィルムまでの距離も大きくとる必要があり、そのままカメラにすると箱型のゴロゴロした形になってしまう。そこで中判全盛のころには折りたためるカメラが多く作られた。山羊の革(ヤンピー)から作られる蛇腹は折りたたみを可能としながらもしっかりした遮光を実現し、なおかつカメラ内部の内面反射も極めて小さく出来るという優れたカメラ素材である。そして、畳んだ状態から使用できる状態に素早く展開できるよう様々な工夫が凝らされた。いくつかの先行例はあるものの、最初に大きな成功を収め、その後の「スプリングカメラ」のジャンルが築かれるきっかけになったのは1929年発売のツァイス・イコン「イコンタ」である。

イコンタの登場後様々なカメラメーカが、ほぼコピーと言えるようなカメラから独自性にあふれたカメラまで様々なスプリングカメラを開発製造した。それとともに、連動距離計や多重露出防止機構・自動巻き止め、さらにはセルフコッキングまで、撮影を便利にする機能が次々と追加されていった。しかし前述のように1950年代の後半には35mmカメラによって息の根を止められてしまう。スプリングカメラの全盛期はわずか30年ほどの期間であった。しかしプロによる需要の他、高画質な写真を求めるハイアマチュア向けに中判フィルムの需要は続き、登山愛好家などを中心に、小型軽量な中判カメラを求める声があり、1980年前後にいくつかの中判折りたたみカメラがリバイバルすることになった。現在のところ、最後の中判折り畳みカメラは富士フイルムによるGF670である。

なおイコンタの設計者はオーギュスト・ナーゲル博士だが、彼はイコンタの発売を待たずしてツァイス・イコンを退社しナーゲルカメラ工場を設立する。その後コダックと合併し「ドイツ・コダック社」の社長となり、パトローネ入り35mmフィルムを製造販売するようコダックを説得するとともに、このフィルムを使用する名機「レチナ」を開発する。ナーゲルがコダックに135フィルムを作らせていなければ、35mmフィルムカメラの発展は20年は遅れていただろうとも言われる。つまり中判スプリングカメラは、ナーゲルが産み、ナーゲル自身が葬り去ったカメラであるといえるのである。